「うまいのに、なぜか続かない」。そんな若手アスリートの課題に、元プロ野球選手の里崎智也さんが鋭く切り込みます。今と昔で何が変わり、何が足りなくなったのか? 昭和・平成時代の「軍隊式メソッド」と、現代の自主性重視の育成環境を比較しながら、やらされる練習の意味、自律の難しさ、そして指導者が今考えるべきアプローチを探ります。
この記事では、里崎氏の練習論を軸に、現代アスリート育成の本質と課題、さらには欧米の成功事例までを交えて、これからの育成に必要な視点をやさしく、わかりやすく解説します。
1. はじめに:今、若手アスリート育成に必要な視点とは?
スポーツの世界では、技術力の向上やトレーニングの効率化が進む一方で、「本当に必要な力は何か?」という議論が改めて注目されています。とくに若手アスリートに関しては、スキル面では高い評価を受けながらも、継続力や精神力に課題を抱えるケースが目立っています。
スポーツ指導者や元トップアスリートたちは、そうした傾向をどう見ているのでしょうか。日本代表を経験した元プロ野球選手・里崎智也氏の視点を通して、現代の育成のあり方を考えていきます。
アスリートを支える指導者や保護者、また将来スポーツを志す若者にとっても、有益な視点をお届けします。
1-1. 「うまいのに続かない」──里崎智也氏が見る現代選手の課題
里崎智也氏は、今の若手選手に共通する課題として「気合いと根性の欠如」を挙げています。技術は高いものの、体力面や精神的な粘り強さが足りず、継続的に競技を続ける力が不足していると語っています。
これは単なる精神論ではなく、練習環境や育成方法の変化にも大きく関係しています。近年では、選手の体への配慮や効率性の重視から、練習時間が2時間〜2時間半と短く設定されることも少なくありません。確かに合理的で科学的な練習法が主流となりつつありますが、その一方で、ある程度の「耐える力」を養う機会が減っているのも事実です。
「うまくなること」と「長く続けること」は別物です。いかにして若手に粘り強さを教えていくか——ここが今後の育成の重要な鍵となるでしょう。
2. 昔の練習は「軍隊式」だった?その功罪とは
現在では避けられることも多い「昔ながらの厳しい練習」ですが、それにも功罪がありました。長時間のトレーニングや、厳しい上下関係の中での指導スタイルは、時に選手の能力を開花させる一方で、潰れていく才能も確かに存在していました。
しかしその時代には、そのやり方なりの「成果」も確かにあったのです。
2-1. 軍隊式練習とは何か?〜昭和・平成のトレーニングスタイル〜
昭和から平成にかけてのスポーツ界では、「気合い」「根性」「反復」の3拍子が揃った、いわゆる軍隊式のトレーニングが主流でした。たとえば、真夏でも水を飲ませずに何時間も走らせる、納得いくまで素振りや反復練習を繰り返すなど、現代では考えにくい練習スタイルが当たり前のように行われていました。
このようなスタイルは、多くのスポーツ漫画にも描かれており、「苦しみに耐えてこそ本物になる」という価値観を世代全体に刷り込んできました。
ただし、それがすべての選手に合っていたわけではありません。過剰な負荷によって、怪我や燃え尽き症候群に陥った例も多く、近年はその弊害も明らかになってきています。
2-2. 里崎氏の見解:「石ころがダイヤになるチャンス」を奪う現代
里崎氏は、昔のような軍隊式の練習が持っていた一つの価値として、「石ころが練習によってダイヤになっていた可能性」を挙げています。つまり、才能の有無に関係なく、継続的な努力や反復練習によって、後から力をつけた選手が少なくなかったということです。
一方、現代は「原石を壊さないようにする」ことを重視するあまり、石ころが磨かれる機会すら持てないという課題を抱えています。才能のある選手は光るかもしれませんが、それ以外の選手が飛躍する「努力のチャンス」が奪われている可能性もあるのです。
つまり、量と質のバランスを見直さない限り、原石は原石のままで終わってしまう。そうした危機感が、里崎氏の発言にはにじみ出ています。
3. 「やらされる練習」は悪なのか?自発性とのバランス
現代のスポーツ教育では、「自分で考えて動くこと」が重視されています。もちろんこれは大切なことですが、果たしてそれだけで十分なのでしょうか?
里崎氏は、あえて「やらされる練習の方が楽だった」と語っています。自らを追い込むことの難しさ、そして自分で自分を管理する能力の重要性に言及しています。
3-1. 里崎氏の持論:「やらされる練習の方が楽」な理由
人は、他人から与えられた課題に対しては意外と取り組めます。ところが、自分で課題を設定し、計画を立てて、それをやり抜くことは想像以上に難しいものです。里崎氏はそこに注目し、「やらされる練習」は実は精神的には楽であり、習慣化しやすい側面もあると語っています。
また、自律型の練習では、「今日は疲れているから軽めにしよう」「気分が乗らないからパスしよう」という甘えが入りやすく、結果として継続力が落ちてしまうケースもあります。
現代の選手には、自分で自分を律する力が求められていますが、それができる選手はごく一部に限られるのが現実です。
3-2. 現場のリアル:大友愛氏が語る現代バレーの練習時間と課題
元バレーボール日本代表の大友愛氏は、現在のバレーボール界でも練習時間が短縮されている実情を語っています。2時間〜2時間半の練習が主流であり、かつてのような長時間にわたる反復練習はほとんど見られません。
これは体への負担を考えれば一理あるものの、基礎力や持久力を鍛える時間が足りないという課題にも直面しています。とくにジュニア世代においては、技術だけでなく「当たり前の努力を当たり前に続ける」環境が欠けつつあると指摘されています。
この傾向はバレーに限らず、多くの競技に共通しており、育成現場全体が再びその在り方を見直す時期に来ているのかもしれません。
4. 海外との比較:育成環境の違いがもたらす差
4-1. 欧米のスポーツ育成はどうなっている?
近年、日本のスポーツ育成環境が見直されつつある中で、欧米諸国の育成スタイルには多くの示唆があります。
アメリカやドイツなどでは、幼少期から科学的根拠に基づいたトレーニングが一般的に導入されており、トレーナーやコーチも専門知識を持った人材が多いのが特徴です。選手個人の身体的・精神的成長に応じてプログラムがカスタマイズされるため、無理な練習や一律の軍隊式トレーニングはほとんど見られません。
また、自主性を重視する教育方針が根づいており、選手自身が目標設定を行ったり、自分の課題に向き合うことが当たり前の文化になっています。これは、ただ言われたことをこなす「やらされる練習」とは対極の位置にあります。
さらに、成功例として挙げられるのが、アメリカの大学スポーツ制度です。学業と競技の両立を図る中で、学生アスリートが主体的に成長し、プロとして通用する基礎力を身につけています。結果として、引退後も社会にスムーズに適応することができ、選手としてのキャリア以降の人生も豊かになるという好循環が生まれています。
このような育成環境は、原石を無理やり削るのではなく、その輝きを最大限に引き出す土壌となっているのです。
5. 今後のアスリート育成に必要な3つの視点
5-1. バランス型アプローチの重要性
日本における育成スタイルは、かつて「気合い・根性・量」で支えられてきました。しかし、それがすべての選手に効果的とは限りません。むしろ、過度な「やらされる練習」は選手のポテンシャルを潰すリスクも含んでいます。
今後重要となるのは、「やらされる練習」と「自主性あるトレーニング」のバランスです。すべてを選手に委ねてしまえば、モチベーションや技術の向上にブレが生じますし、逆にすべてを指示してしまえば、自発的な成長は望めません。
たとえば、一定のルールやトレーニング枠を設けた上で、その中で選手に選択権や発言権を与えるといった方法が考えられます。これは、組織的な運営と個人の自由を両立させる“バランス型アプローチ”といえるでしょう。
また、トレーニングの「量と質」も見直すべきです。1日6〜8時間におよぶ練習が当たり前だった時代から、現代では2時間〜2時間半の集中型トレーニングが主流になりつつあります。短時間でも高強度・高効率な練習が可能な今だからこそ、科学的根拠に基づいた設計が求められます。
6. まとめ:原石を輝かせる育成とは何か
才能ある若手選手を本当に輝かせるには、「やらされる練習」で基礎を固める時期と、自主性を育むフェーズの両方が必要です。
一人ひとりの成長スピードや性格、目的意識に応じて、適切なタイミングでトレーニング手法を切り替える柔軟性が、これからの育成現場には欠かせません。気合いや根性といった精神的な要素は、選手が壁にぶつかった時に必要な“内なるエンジン”となるものですが、それを引き出すためにも、自分で自分を律する経験が求められます。
かつてのような軍隊式メソッドでは、石ころがダイヤになる可能性はあっても、ダイヤの原石を壊してしまうこともある。これからは、そうしたリスクを最小限に抑えつつ、個々の原石が本来持つ光を見極め、磨いていく視点が重要になります。
アスリート育成とは、単なる強化ではなく「可能性を開花させる過程」です。教育・指導者・環境、すべてが連携して初めて、真に輝くアスリートが生まれるのではないでしょうか。
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